【話題】貧困層から選抜した30人全員が、東大以上の難関大に合格…インドの「30人限定無料塾」のすごすぎる仕組み



貧しい家庭の子供30人を選抜し、国内最難関の大学に次々と合格させる無料塾「Super 30(スーパーサーティー)」がインドにある。一体どのような授業を行っているのか。塾長のアナンド・クマールさんに聞いた――。(聞き手・構成=JISTEC 上席調査研究員・西川裕治)(前編/全2回)

■510人中422人がインド最難関大学に合格

――Super 30について教えてください。

Super 30は私が2002年に北部ビハール州のパトナに設立した貧しい家庭出身の子供限定の無料塾です。定員が30人なのでSuper 30と名付けました。これまでに510人を輩出し、その内422人がインドで最難関とされるインド工科大学(IIT)の入学試験に合格したのです。残る88名も、国立工科大学(NIT)などの優秀な工科大学に進学しました。

IITに合格するのは日本の東京大学や、米国のMITやハーバード大学よりも難しいとも言われています。初年度のIITの合格者は18人でしたが、創設後の10年間で、30人全員を合格させた年が4回あります。

IITの受験科目は、数学、物理、化学の3科目です。Super 30には先生は私を含め5人います。物理、化学で2人ずつ講師を雇い、数学は私1人で教えています。講師の採用では、試験を実施し、さらに模擬講義をしてもらい、生徒たちの満足度を聞いてから採用を決めます。

生徒の定員を30人としたのは、私の資金的に、30人以上は責任を持って面倒を見れないからです。これまでにインド財閥のオーナーや日本の有名企業のトップが巨額の資金援助を申し出てくれたことはありますが、私は丁重にお断りしてきました。

Super 30を開始した頃は、手持ちの資金はとても限られており、家族の全面的な協力を得て頑張りました。その経験を通じて、外部からの資金提供なしでもなんとかやっていけるとの確信を持つに至りました。つまり、自分に意志と勇気、チャレンジ精神があれば目的は達成できるという確信であり、世間にも、生徒たちにもそのことを知ってほしいと思っています。

■貧しすぎてケンブリッジ大学への留学を断念

――なぜ生徒から授業料を徴収せず、無料で教えているのですか。

それは、私の過去が深く関係しています。

私は子供の頃から理数系の科目が好きで、将来は科学者や教師になる夢を持っていました。数学はもともと苦手でしたが、9年生(中学3年)の頃からは、1日10時間くらい数学の勉強に没頭し、進学した近くのカレッジでも数学を専攻しました。そのカレッジの教官は私の父親に「この子は数学の世界で生きていけるので、数学に専念させるように」と言ってくれました。

父は郵便配達員で、収入は少なく貧しい家庭環境で育ちましたが、父は貧しいながらも、私の数学の勉強のために、なけなしのお金を惜しげもなくつぎ込んでくれました。

私はいつも科学の本を読んでいました。しかし、自宅があるパトナには図書館がなかったため、300キロメートルも離れたバラナシ・ヒンドゥー大学の図書館に頻繁に通いました。バラナシまでの列車の乗車賃がなく、無賃乗車したこともあります。学生ではないので、大学の図書館から追い出されたこともありますが、それでも通い続け、最新の知識や情報を得ました。

そのかいがあって、私が書いた研究論文はケンブリッジ大学などのジャーナルに掲載され、高い評価を得ることができました。そして、その論文を見たケンブリッジ大学から入学許可が下りたのです。

――それはすごいですね。

ですが、私はケンブリッジ大学に入学を果たすことはできませんでした。当時、私の父の収入は少なく、英国への渡航費すら払える状況になかったのです。

■数学の才能を生かせず手作りのせんべい売りへ

父は、親戚などあらゆるところに金策に走りましたが、結局誰からも十分な資金提供を受けることができませんでした。ある政治家は、「自分が何とかする」と口約束をしたことがありましたが、実際に会いに行くと、何もしてくれませんでした。その心労もあってか、父は入学のタイムリミットの直前に突然亡くなりました。そして、残された家族を支える責任が自分の両肩に重くのしかかってきたのです。当然、英国への留学などは考えられなくなりました。

――お金が理由で教育を諦めざるを得なかったのですね。その後はどうしたのですか。

私は残された家族の生活のためにパパド(小麦粉の薄焼きせんべい)の販売を始めました。当時は他に方法もなく、母が作るパパドを売って生計を立て、2~3年間はパパド売りとして家族を支えましたが、貧困から抜け出すことは到底できませんでした。

■「王の子ではなく有能な者が王になる」

パパド売りを続けていた頃、私が数学が得意だったことを聞きつけた知人から声が掛かり、進学塾で数学講師としての職を得ることができました。

半年ほど働いたある日、とても大きな才能を持ちながら貧乏で高等教育を受けられない生徒と出会いました。彼もまた、私と同じように「勉強したい」という志を持ちながら、家庭が貧しいというだけでその機会を得られずにいたのです。私は「彼らに自分と同じような経験をさせてはならない」「自分がなんとかしなければ」と痛感し、Super 30の開設を思い立ったのです。

私の父も家庭が貧困であったため才能があったのに教育の機会を失い、給料の低い職にしか就けなかったのです。貧しい家庭の有能な子供を教育支援することは、父からの遺言でもあったのです。父の口癖は、「王様の子が王様になるのではなく、有能でやる気がある者が王様になる」でした。私もそのことを自分の胸に焼き付けました。

■塾を抜け出した生徒は1人もいない

――Super 30で学ぶ30人の塾生の普段の生活はどんなものですか。

Super 30は毎年6月に授業を開始し、IITの入試が行われる翌年の3~4月まで授業が続きます。

彼らは朝6時に起床し、朝食を取った後、授業を午前8時から午後1時まで受けます。その後昼食をとり、午後2時からは自習が始まります。夜9時に短い夕食を挟んで、勤勉な生徒は日をまたいだ午前2時まで自習をします。よって彼らは、平均的には毎日14~16時間は勉強していることになります。

受験競争はとても厳しく、彼らのような貧しい子供たちが通ってきた地元の公立学校は、裕福な子供が通う私立学校とは異なり、先生の数も少なく教材や設備も貧弱なので、Super 30に入ってからは猛勉強して、それまでの遅れを取り戻す必要があるのです。

――Super 30での勉強や生活はとても厳しいようですが、ドロップアウト(退学)した生徒はいますか。

これまでドロップアウトした生徒は1人もいません。その理由は、われわれが彼らに将来の明確な目的を示し、励まし勇気づけるからです。貧しい家庭出身の彼らには、他に行くところがないのです。だから彼らは本気で頑張り、われわれも全力でサポートするのです。

■塾生のモチベーションを上げるおとぎ話

彼らを勇気づけるための効果的な方法の一つとして、リッキーとボルの話を紹介しましょう。私はリッキーとボルと名付けた2人の漫画のキャラクターを使ったストーリー(寓話)を作り、彼らに読み聞かせています。

リッキーは裕福で英語を話す上品で都会的な少年で、教科書もPCもオートバイも何でも持っています。彼は、ピザやハンバーガーホットドッグなどをいつでも自由に買って食べることができ、オーダーメードの服を着ています。

一方、ボルは伝統的で安価なダル(豆カレー)やロティ(パン)、野菜しか食べられない典型的な田舎の貧困家庭の子供で、薄汚れた服を着てゴムスリッパを履いています。英語はおろか地方の方言しか話せず、おんぼろ自転車に乗っているのです。

しかし、リッキーは授業で出された問題を教科書で習った方法で解くのにも苦労しているのに対し、ボルは、同じ問題をいくつもの異なる方法で簡単に解くことができるのです。なぜなら、ボルは常に勉強に没頭し、かつ自分の頭で広く深く考え抜いていたからなのです。

この勝負の勝者は明らかにボルなのです。私は生徒たちに彼ら自身の能力を信じさせるために、このキャラクターストーリーを創作しました。生徒は私のストーリーに共感し、確実に成果が生まれています。

■試験の本番は「101回目の模擬テスト」

――他の進学塾とは異なるSuper 30の特徴的な教育指導方法はありますか。

私の教え方は、問題を解くための基本的な考え方やコンセプトストーリー化して示すのです。そうすることで生徒の理解が飛躍的に向上します。次に重要なことは、ただ単に公式や解法を教えるのではなく、出された問題の背景、理由などを考えさせるのです。単なる知識ではなく、WhyやHowがとても重要なのです。

むろん、受験の知識も必要なので、定期的にIITの試験問題に似た内容でテストを頻繁に実施しています。受験の3カ月前からは隔日でテストを実施し、IITのテスト問題に慣れさせます。つまり、1年で最低でも100回の模擬テストを実施しているのです。そうすると、実際にIIT入試を受験するのは、彼らにとっては、単に101回目のテストを受けるだけのことになるです。受験の訓練を何度も繰り返し、慣れることが効果的なのです。“Practice makes perfect”なのです。

さらに私は、欧米、日本、ロシア、韓国など、世界各国の大学受験参考書を入手し、その傾向と対策を研究し、あらゆる問題に対応できるように準備しています。

■卒業生の中にはグーグルで働く者もいる

――Super 30の生徒はどのようにして決めるのですか。

毎年入塾試験を実施し、1万人以上が受験します。まずは成績順に100人を選び、続いてインタビューを実施して、本当に貧しい家庭の子供かを聞き出します。そして、私の主義として、同レベルの能力であれば、より貧しい家庭の子供を選ぶようにしています。そのため、日々の食事にも困るような家庭の子供もいるのです。

例えば、極度な貧困のために二人兄弟のひとりが自殺したという子供も引き受けました。そんな境遇でも彼は夢を失わずに努力を重ねてIITに入り、現在は米国のグーグルで働いています。そんな例がたくさんあります。

――ほかにSuper 30を卒業してIITやNITに進学した生徒たちは、卒業後にどんな仕事に就いていますか。

インド国家公務員上級試験や外交官試験などを受験して高級官僚になる者もいます。また、インド国内企業だけでなく、グーグルなど世界トップレベルの民間企業やスタートアップで職を得る者もいます。日本に来て有名な企業に就職したり、東大の大学院に留学した者もこれまでに4人います。

(後編に続く)

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西川 裕治(にしかわ・ゆうじ)
科学技術国際交流センター(JISTEC)上席調査研究員
1951年生まれ。広島大学工学部卒業し、76年日商岩井(現・双日)入社。20年間海外営業を担当し、インドネシアスリランカに駐在。広報室、人事総務部、日本貿易会出向を経て、12年より日本在外企業協会『月刊グローバル経営』編集長。15~18年 科学技術振興機構(JST)インド代表を経て、22年より現職。世界の優秀な若手人材を日本に招聘するJSTの「さくらサイエンスプログラム」の推進に携わる。

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貧しい家庭の子供たちに数学を教えるアナンド・クマールさん - 写真=アナンド・クマールさん提供


(出典 news.nicovideo.jp)

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東大以上とかいう必要ある?