【話題】「困窮と孤立から自死も考えた」児童養護施設を18歳で退所した“ケアリーバー”の実態



 家庭内の虐待や貧困、親との死別など、様々な理由から児童養護施設で育つ子どもたちがいる。施設は原則18歳での退所が定められており、それまで社会的に養護されていた若者は自立を求められ、「ケアリーバー=保護を離れた人」と呼ばれる。しかし、戻る家庭もない環境で、経済的な困窮や孤立に追い込まれるケアリーバーは多い。こうした問題をうけ、2024年4月の児童福祉法改正では施設退所年齢の「18歳上限撤廃」が決まったが、実際、ケアリーバーにはどのような苦悩や困難が待ち受けているのか。当事者に話を聞いた。

【動画】「大人になって終わりじゃない」山本昌子さんが描く虐待経験の現実

■両親が育児放棄、親族に発見され施設へ「生後4ヵ月でした」

 今年30歳になる山本昌子さんは生後4ヵ月から18歳までを乳児院、児童養護施設で過ごした。

「私の場合、両親のネグレクト(育児放棄)でした。母が産後うつを起こして、家を出てしまったんです。父の実家で暮らしていたんですが、同居する父のきょうだいとうまくいっていなかったのも原因と聞いています。仕事優先の父は私の世話をするのに手が回らなかったらしく…。結局、父の姉が衰弱していた私を見つけ、そのまま施設に保護されました」

 物心つく前から乳児院・児童養護施設で育った山本さんにとって、関わるスタッフや同じ境遇で預けられた子どもたちは、いわば家族のような存在だった。

「私が育った施設は、子ども6人に対して、職員3人がつきっきりで面倒を見てくれました。一般的な施設はもっと子どもの人数も多く、職員や入居者の入れ替えも激しいのですが、ウチは10年間スタッフの入れ替えもなくアットホームな雰囲気でした。喧嘩や反抗期などもありましたが、そうした時期も交換ノートなどコミュニケーションの場を設けてくれていました」

 しかし、手厚い保護を受けた山本さんも、18歳を迎え退所を迫られる。それまで“自身の家”“家族そのもの”と感じていた施設を去ることは「精神的にかなりのショックだった」と打ち明ける。

「人生の大半を施設で過ごした私にとって、これまで築き上げてきた人間関係が一瞬で消えてしまうのはとてもつらかった。もちろん退所後も電話したり、施設を訪問することはできます。でも、そこには新たな保護すべき児童たちがいて、職員さんたちは目の前の子どもたちで手一杯なんです」

 退所後、日を追うごとに「自分には頼れる両親がいないんだ」「もどるべき場所がない」と実感することが増えた。

「とにかく寂しくて仕方なかった。時には自分は職員に裏切られたと思う時期もありました。もちろん私自身、昔も今も施設の環境にとても感謝していますが、退所から数年は経済的にも精神的にもうまく自立できず、『幸せだった施設での記憶だけで人生を終わらせたい』と、何度も自死に踏み切ろうとしたこともありました」

■ケアリーバーの一定数が、風俗やキャバクラに流れ着く理由

 山本さんは児童養護施設を退所後、バイトで入学費用を貯め上智社会福祉専門学校に進学。入学後に直面した厳しい現実の数々も、孤独感を深める原因になったという。

専門学校に進学した途端、それまで頑張って貯めた100万円ほどが、学費や生活費で一瞬で無くなり呆然としました。ところが、実家暮らしの同級生たちは、月数万円のバイト代を自分の趣味やおしゃれのために使える。その事実を目の当たりにした時、人は生まれながらに幸福の度合いが違うと痛感し、はじめて自分の境遇を恨みました。施設にいた時は本当に幸せで、施設で育てられていること、またそうなった自分の境遇を不幸だと感じたことがなかったので、退所後にはじめて知る感情でした」

 生活費を稼がないと生きていけないという焦燥感もあった。ショックや不安が重なり、精神的に不安的な状態が続いた。

「朝起きられない日が続いたり、突然、電車の中で号泣したり…。鬱っぽい状態はなんの予兆もなく訪れるので、自分自身の精神状態がわからない怖さもあり、家に引きこもりがちになりました」

 このように孤立するケアリーバーの中には、ホームレスになったり、自死を選んでしまう人もいるという。

「私はたまたま生き抜くことができました。でも今、私のもとに助けを求めにくる子の中でも“暗い闇”から抜け出せず悲しい選択をしてしまった子もいます」

 専門学校卒業後、保育士として働いていた山本さんは、現在、YouTubeや講演活動を通じた情報発信やボランティア団体の代表など、児童養護施設出身者に対する活動を行っている。自身と同じように、施設を退所してから、精神的な喪失感を抱えるケアリーバーは多く、その他にも様々な問題があると話す。

「施設に入居している子どもたちは、ネグレクトや虐待を受けた子が大半。退所による喪失感や閉そく感から、過去のトラウマフラッシュバックしてしまうケースも多いんです。トラウマを抱えている若者は、他人とのコミュニケーションがうまく取れなかったり、他人の目を異常に気にしたりと、職場で孤立して仕事を辞めてしまうケースもあります。

 孤独感から仕事を休んでしまうことも珍しくありません。例えば、出勤する時間なのに、遊んでいる友達と離れたくないからという理由で無断欠勤してしまうんです。ひとりだけ友達の輪から抜けたら『この関係が切れてしまうかもしれない』という不安から、その場を離れられなくなってしまうんです」

 ただ世間からしたら、そうした問題行動や虐待の経験は理解されづらい。

「『もう大人なんだからしっかりしなさい』と突き放されるのがオチですよね。そうして理解者がいない状況に直面することで、1人悩む時間が増え、悪循環に陥ってしまうんです。ケアリーバーの中には、風俗やキャバクラなどの水商売で働く人も一定数いますが、彼女らは収入面の他に、自己肯定感を埋めたい、誰か側にいてほしいという欲求も強いんです」

■「児童養護施設だけに押し付けるのは無理」退所年齢の上限撤廃への危惧

 かねてより問題視されていたケアリーバーのアフターケアだが、来年から本格的に支援が拡充される。2024年4月に児童福祉法が改正され、児童養護施設や里親家庭における退所年齢の上限撤廃が決まったのだ。

 一見、こうした支援策は、路頭に迷うケアリーバーたちを減らす効果が期待される。しかし山本さんは、児童養護施設の運営側に負担がかかると危惧する。

「もちろん法改正は必要な事ではありますが、確実に運営側の負担が増えると思います。いまは、虐待されている環境にいても児童養護施設に入れない子どももいる。今より多くの入居者の受け入れを、児童養護施設だけに押し付けても無理があるのではないでしょうか」

 そこで、NPOや任意団体などが連携し、児童養護施設をバックアップしていくことが必要だと述べる。

「東京には、児童養護施設以外にも、社会的な擁護が必要な子ども達を受け入れている団体が多い。こうした団体同士が連携し合うような環境が、これから必要になってくると感じています。というのも、現状多くの団体は思う存分活動できないジレンマを抱えているんです。例えば、NPOだと助成金は受けられるものの、事務処理など本来の活動以外に時間を取られる弊害が大きい。一方で、私のような任意団体は自由に動けるぶん、活動資金が少ないデメリットもある。団体同士のつながりが増えれば、それぞれの団体の手が行き届かない部分を補いながら、全体的な受け皿も大きくなる。施設の運営側の負担も減るのではないかと感じます」

 近年、支援が必要な人を対象とした福祉事業では助成金などの不正受給問題や、その使い道をめぐりトラブルになるケースなどもあるが、「資金があるからこそできることもある」と団体自体へは理解を示す。

「ただNPOも任意グループも大事なのは、活動実態を明確にすることだと思います。私もサポートを受けたら“冷蔵庫買いました”など事後報告を大事にしています」

 最後に、ケアリーバーの救済には支援策の拡充だけでなく、周囲の理解も欠かせないと山本さん。

「私自身もケアリーバーの人たちと関わるなかで、理解に苦しむ行動を取られたり、約束を裏切られたりと、感情のコントロールが効かない若者に戸惑うことは多々ありました。だからこそ一般的に生きてきた人たちが、私たちを軽蔑したり、差別したりする気持ちもわかるんです。

 ただ、声を大にして言いたいのは、子どもの頃に虐待されていた記憶は一生残るということ。『もう大人なんだから過去の虐待は忘れてください』と言うのはすごく残酷ですし、そこでケアリーバーを攻撃したり、人格を否定するようなことはしないで欲しいです。私たちも自分自身の過去と戦い続けることを諦めないので、優しく見守ってもらいたいです」

 山本さんはケアリーバーの認知拡大を図るため、虐待被害者たちの声を集めたドキュメンタリー映画『REALVOICE』を4月に公開する。スタッフキャストが無償で作り上げた作品は、全国で無料上映を予定している。精力的に情報発信を行うことで悲しい選択をするケアリーバーがいなくなることを願っている。

(取材・文/佐藤隼秀)

児童養護施設で育った山本昌子さん(30歳)。”ケアリーバー”として苦しんだ経験から、現在は施設出身者や虐待経験者を支援する活動を行っている。


(出典 news.nicovideo.jp)

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えーと、厳しい言い方をあえてすると年齢上限撤廃で「施設内ニート」「施設警備員」ができるってことだな。本当に自立できない入所するしか生きるすべのない10代以下の入所は人数制限などで拒否されるようになるのか?