【ニュース】カオスか希望か…新宿駅南口、中国人留学生の“反習近平集会”に8時間密着して見えたもの |



 11月30日夜、新宿駅南口で、中国国内の反ゼロコロナ運動(白紙運動、白紙革命)に呼応した在日中国人の若者らによる集会が開かれた。すでに同夜から多数の報道があったので、知っている人も多いだろう。私が見たところ、人数の規模は中国人だけ数えても500人以上。報道陣や野次馬も加えれば1000人をゆうに上回った。

 とはいえ、日本版の白紙運動の現場の印象は、一言で言えばカオスであり複雑だった。母国の学生運動や大衆運動に呼応して活動するとき、デモや市民運動の経験が豊富な在日香港人や在日台湾人の学生はかなり整然と活動をこなすのだが(2019年香港デモの場合、現地よりも在日香港人のデモのほうが行儀が良くて垢抜けていたくらいだ)、中国人はそうはいかない。

 中国人の場合、母国では官製以外の政治示威活動が厳しく禁止されている。自由に意見を表出するデモや政治集会は、過去の参加経験どころかそもそも見たことさえない人が多い。ゆえに新宿の現場はおおいに混乱しており、他人事ながら見ていてハラハラした──。だが、いっぽうでカオスのなかに美しさも見えるという不思議な後味も残った。

イベントごとに代表者が違う

 日本での白紙運動のイベントの主催者は、「身バレ」のリスクを減らす目的もあって全員が匿名だ。明確な組織も存在していない。彼らはデモや集会ごとに、Telegramやその他のSNSプロジェクトグループを作っている。集まる名目は、本国のデモの発端であるウルムチでの火災犠牲者の追悼を掲げるものが多いようだ。

 なので、12月上旬にかけて日本の各地で若い在日中国人によるさまざまな活動が予定されているのだが、中心人物は同一とは限らない(ただし、複数のSNSグループを掛け持ちしている人も多いので、各活動にはゆるい横のつながりが存在する)。

 今回の11月30日の集会については、私がこれまで追ってきた若い在日中国人の体制批判の動き(過去記事参照)と連続性があったため、主催グループとは容易に連絡がついた。とはいえ、今回の集会は大手マスコミ各社が現場に取材に来る。私は他社と差をつけるため、主催者に頼みこみ、集会の開始4時間前の準備段階から散会の2時間後まで完全に密着することにした。今回はそのルポをお届けしたい。

テキパキ働き続ける中国人

 主催グループの「指揮部」は、この日の会場である新宿駅南口のすぐ近くの貸し会議室を8時間レンタルし、臨時の「基地」を設営していた(「指揮部」や「基地」は彼らの表現である)。グループメンバーは70人ほどらしいが、基地に出入りしていたのは25人ほど。見た限りでは、男性9割女性1割の割合である。

 全員に確認したわけではないが、何人かの証言や従来のネット上の動きとの連続性、平日の昼間に長時間活動できている事実などから考えて、過半数は留学生だろう。しかも、かなり頭のいい大学の学生だ。

 2014年の台湾のヒマワリ学運や2019年香港デモと同じく、白紙運動のメンバーも交通整理班、物資調達班、後片付け班などの役割分担をおこなっていた。大量のトランシーバーや、顔を隠すためのお面をはじめ各種の変装道具、屋外用のバッテリー、追悼に用いるLEDキャンドルなどは、メンバーでお金を出し合って調達したらしい。活動の内部文書を見ると「不分化、不割席(仲間を疑わず分裂せず)」など香港デモの用語もすこし混じっている。

 基地となった会議室では、19時からの集会で使う立て看板や小道具の製作、スピーチライティングの準備などがものすごい速さで進んでいた。結果的にいえば、その後の集会では十分に役立てられなかったものもあるのだが、この時点ではかなりテキパキ動いていた印象で、1人も手持ちぶさたの人がいない。

 この日、私は普段ボドイ(ベトナム人の逃亡技能実習生)取材を一緒にやっているカメラマンの郡山総一郎と一緒に来ていた。主催グループの若者が猛烈な勢いで効率的に動き回る様子を見て「やばい、中国人は優秀だ」「高学歴の留学生すごい」と、普段見ているディープな光景とのあまりのギャップに感嘆したのは事実であった。

 開始前は、メンバーたちはいずれも緊張した表情だった。「終わってから打ち上げはするの?」と尋ねた私に「追悼のための集会なんです。本来ならやるべきではないこと。嬉々として打ち上げをやる気にはなれません」と硬い表情で答える若者もいた。

目立ちたがる活動家ジャックされる集会

 とはいえ、万全の準備にもかかわらず、集会はかなり混乱した。強硬な「反中国」を掲げる市民運動は、日本では2008年春のフリーチベット運動からもう14年もおこなわれている。それらの活動家が旗やプラカードを現場に盛んに持ち込んだことで、外から見るとかなり極端な(しかも従来の日本の右派の市民運動と変わらない)集会に見えてしまったからだ。

 また、これまた主催グループとは無関係な、極端だったり目立ちたがり屋だったりする中国人の抑え込みにも失敗していた。中国の各地域分裂と四川省の独立を訴える謎の活動家が巨大な旗を出して演説スペースの背後に陣取ったり、また英領時代の香港旗など、たとえ体制に批判的な中国人でも一般的には距離を置くようなアイコンが登場したりするのも止められなかった。

 そもそも今回、白紙運動の集会現場にやってきた一般の在日中国人は、ウルムチ火災などでのゼロコロナ政策の犠牲者を純粋に追悼したい人から、政策を生み出した習近平の独裁体制に憤慨して中国共産党中華人民共和国を健全化したいと考える人、そして党の打倒を考える人まで、立場に相当なグラデーションがあった。

 日本に置き換えれば、同じ「野党」勢力でも、体制に肯定的な国民民主党から公安監視対象である新左翼セクトまでいろいろいるのと同じことである(なのに集会で新左翼の旗しか出ていなければ、一般市民は違和感を持つだろう)。

 なので、実は「基地」でのミーティング段階では、会場を細かく分ける計画が出ていた。すなわち、ルミネ側から見て右に行くほど穏健エリア(温柔区)、左に行くほど過激な政治主張をおこなうエリア(熱血区)を設定。いっぽうで香港や各少数民族の独立運動家や、それを「支援」する日本人市民活動家など各種各様な人たちは、さらに左側に作る「世界社区大団結区」に入ってもらい、穏健に追悼したい人たちと過激な勢力が重複しないよう配慮する……はずだが、結果的には、集会会場の全体に過激な旗やプラカードが配置されることになった。

声を上げるだけで感極まる

 当然、このゴチャゴチャ感に不快感を持った人はそれなりにおり、主催グループに協力した別の穏健派の参加者も、集会後にTelegramに否定的な意見を書き込んでいた。私の身辺を観察しても、日本在住歴が長くて日本社会の「ダメな市民運動」のテクストを知っている中国人ほど、集会の光景を「気持ち悪い」と嫌がっていた。

 ただ、現場を見ると、それでも喜んでいた在日中国人もかなり多かった。中国共産党習近平の下野を求める声は、過激エリアだけでなく穏健エリアからも盛んに上がっており、しかも何度も繰り返される。穏健エリアでは「自由万歳」という叫び声も多かった。白い紙や、自作らしきさまざまなプラカードを持って立っている人も数多い。

「『自分とおなじ考えの仲間がこんなにいたなんて知らなかった』と、感極まって泣き出している女の子がいた。同行していた彼氏がなぐさめていた」

 とは、会場にいた私の友人の証言だ。そもそも、この日の新宿駅南口に集まっていた若い中国人のおそらく8~9割は、これまで自由な政治集会に参加したことも、中国共産党習近平への非難を群衆が口々に叫ぶ姿も見たことがない(後者については、日本人の私ですら3日前にはじめて見たばかりである)。

 それどころか、彼らにとっては「中国政府に異議を唱える一般市民の中国人」という存在すら、リアルではほとんど見たことがないレアポケモンのような人たちだったはずだ。なのに、集会の現場にはそういう人が数百人もいたのである。

 ゆえに、本来ならば多くの中国人は抵抗感を覚えるはずの東トルキスタン旗や英領香港旗がひるがえっていようと、日本人の市民運動家がのさばっていようと、溢れ出る感情の洪水でそんなものは見えていない人が相当いた。

 彼らは「習近平下台(習近平は辞めちまえ)」とか「要自由(自由をよこせ)」とかをみんなで声を合わせて叫べるという事実に、すでに感動している。それは姿を見ていても伝わった。

主催グループは、“とにかく満足”

「今日の活動を100点満点で総括すると? うーん、85点かな! こんなに多くの人が来てくれるなんて思わなかったよ! やりがいがあったし、感動したなー。残念だったのは、ちょっと演説がゴチャゴチャしちゃったことだけど、いやでも、感動したよ!」

 集会を終えた後、「基地」に戻ってきた主催グループメンバーの多くは、かなりハイテンションだった。私が「今日の点数は?」と尋ねると、多くの人は80点台以上をつけていた。

 開始前のピリピリした雰囲気とは異なり「メシいくぜ!」みたいな明るい声も各所で上がっている。大部分が20代前半くらいの青年たちが、異国で生まれてはじめての政治集会を取り仕切ったところ、大量の賛同者と日本の大メディアの記者が集まってきたのだ。興奮するのは当然だろう。

「会場でチベットウイグルや香港の旗が出ていると、ただ追悼だけしたくてやってきた一般人は気まずいんじゃないですか? 彼らは分離独立は支持していないでしょう」

 そう尋ねてみたが「別によくないですか」みたいな返事が多かった。実のところ、穏健派がリーダーだった11月27日新宿駅西口の集会と違って、30日の南口の集会の母体は比較的急進的な考えのグループであり、中国共産党の嫌がることはなんでも大目に見る傾向がある。

 日本人の市民運動家が入ってくると日本の一般市民やマスコミのウケが悪くなるという懸念も、そもそも主催グループの大多数は、問題の所在それ自体を理解できていないようだった。考えてみれば、いくら優秀な留学生でも、異国の社会のかなりハイコンテクストな市民意識を理解することは容易ではないはずなのだ。

台湾と香港から伝授されるノウハウ

 屋外での集会が終わった後の「基地」には、台湾人の若者や、香港デモの日本での代表者のウィリアム・リーとその仲間が慰労にやってきていた。

 往年の活動では中国大陸とは感情的なしこりも強かった香港デモメンバーは「われわれが共闘できる部分があれば共闘したい」と、やや歯切れが悪い様子もあった。ただ、活動が盛り上がっているときの心得など過去の経験を流暢な標準中国語で熱心に説明する様子に、主催グループ中国人の若者たちは真剣に聞き入っていた。

「よかった。今回の経験を糧にこれからも頑張るぞ!」「次は12月○日の池袋だ!」

 翌朝になっても、彼らが加入している主催グループの指導部のSNSコミュニティでは喜びの投稿が絶えなかった。興奮して眠れなかった人も多いようである。逆に言えば、集会であぶりだされた問題点については、必ずしも冷静な総括はなされていないようだ。

 11月24日のウルムチでの火災発生以来、中国の主要都市各地で発生した抗議デモは、わずか数日で政府当局側が厳戒態勢を敷くようになり、急速に勢いを失いつつある。ただ、ゼロコロナ政策のみならず習近平政権や中国共産党の統治にまで大きな批判の声が上がった事実は、近い将来、別の大きな政治変動の伏線になるような気がしてならない。

 果たしてそのときまで、白紙運動で形成された若者の熱気と政治的関心は残り続けるのか。そして中国の変化になんらかの作用を及ぼし得るのか。立ち上がった留学生たちのつたなさや危うさも含めて、もうしばらく静観したいところである。

(安田 峰俊)

11月30日の集会にも2箇所の献花スポットがあった。©Soichiro Koriyama


(出典 news.nicovideo.jp)

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