【ニュース】テスラ超えの大躍進、中国EVメーカー「BYD」の強さの秘密
(花園 祐:中国・上海在住ジャーナリスト)
中国汽車工業協会によると、2022年1~6月の中国自動車販売台数は前年同期比6.6%減の1205.7万台でした。4月以降、上海市をはじめ中国各地で行われた新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)によって乗用車販売は伸び悩み(同3.4%増の1035.5万台)、商用車市場の大幅な落ち込み(同6.6%減の152.2万台)も重なった結果、自動車市場全体で前年割れという結果となりました。
一方、昨年(2021年)から急拡大が続く新エネルギー車市場は目を見張る拡大が続いています。2022年1~6月における販売台数は同115%増の260万台となり、昨年同様に倍増ペースが続いています。
中でも、日本乗用車市場への進出を発表した新エネルギー車の老舗メーカー、比亜迪汽車(以下「BYD」)の躍進ぶりが大きく目立ちました。背景にはロックダウンでサプライチェーンが混乱する中、重要部品を自社調達する垂直統合の効果が指摘されています。
今回はこうした上半期における中国自動車市場の動きを、各種統計とともに解説します。
上海ロックダウンが自動車市場を直撃
2022年第2四半期(4~6月)の月別販売台数を見ていくと、4月は前年同月比47.6%減の118.1万台とほぼ半減し、5月も同12.5%減の186.2万台となり、2カ月連続で前年割れしました。6月には同24.2%増の250.2万台と反動消費がみられたものの、4月、5月の大きな落ち込みを埋めるまでには至っていません。
この2カ月間の落ち込みの原因は言うまでもなく、同期間に行われた上海市のロックダウンにあるでしょう。
この間、自動車販売台数が最も多い都市、上海市で、自動車販売は一切行われませんでした。また上海市内の各自動車関連工場も操業をほぼ停止したことで、中国全土でサプライチェーンの混乱、部品の供給不足が発生し、完成車の生産出荷を阻害しました。
この上海市の大規模ロックダウンは6月には終わりましたが、その後も感染力の高いオミクロン株の流行に伴い、中国の各都市では散発的なロックダウンが今も実施されています。今後も大規模なロックダウンが行われる可能性は否定できず、中国のみならず世界の自動車業界にとっても大きなリスクとなっています。
BYDが大躍進、販売台数は2.6倍に
メーカー別販売台数では一汽大衆(中国第一汽車と独フォルクスワーゲンの合弁企業)が首位の座を守りましたが、販売台数は前年同期比13.5%減の85.6万台でした。その落ち幅は市場全体を上回っています。
日系ではトヨタ系列の広汽豊田が同19.9%増の50万台と大きく成長しました。一方、その他の日系メーカーはいずれも前年割れしており、市場全体の日系シェアも下がっています。
外資系メーカーが苦しんだ一方、中国系(自主ブランド)メーカー各社は上半期に順位を大きく上げています。具体的には、BYD、長安汽車、吉利汽車、奇瑞汽車、長城汽車の5社がトップテン入りを果たしました。
中でも、ウォーレン・バフェットが投資することでも知られる新エネルギー車専門メーカーのBYDは、上半期、予想外の大躍進を遂げています。その販売台数は64.3万台で一汽大衆に次ぐ2位となっており、前年同期比成長率は162.9%という急増ぶりを見せました。
BYDの躍進ぶりは、車種別販売台数においてもはっきり表れています。
上半期のセダン車種別販売台数トップテンでは、BYDの「秦」(14.6万台)が4位に、「漢」(9.1万台)が10位にそれぞれランクインしています。驚くべきはその成長率で、「秦」が255.1%増、「漢」が85.7%増を記録しており、他を大きく突き放しています。
またBYDが販売するSUV(スポーツタイプ多目的車)の「宋」も同113.3%増の16.2万台を記録し、テスラモーターズの「モデルY」を上回り上半期SUV販売台数でトップとなっています。
垂直統合が効果を発揮
上半期におけるBYDの躍進理由としては、まず新エネルギー車市場の拡大が挙げられます。
冒頭でも述べた通り、今年上半期に中国自動車市場は全体で前年割れとなりましたが、一方で新エネルギー車の販売台数は前年同期比115%増の260万台を記録し、倍増が続いています。世界で三菱自動車の次に電気自動車(EV)の量産を開始し、新エネルギー車業界において老舗といえるBYDも、「新エネルギー車市場の急拡大」という大きな追い風を受けています。
もう1つの理由として、ロックダウンに伴うサプライチェーンの混乱に各社が苦しむ中、BYDは重要部品を自社調達する垂直統合の強みが効果を発揮したとの指摘があります。
BYDは元々電池メーカーとして事業をスタートしています。電池事業は現在も続けており、電気自動車(EV)の最重要部品である動力電池をBYDは自社で生産し、自社の完成車に搭載しています。
先の上海ロックダウンではサプライチェーンが大混乱を起こし、どのメーカーも部品や原材料の供給不足により、ほぼ例外なく大幅な減産に追い込まれました。しかしBYDは他のメーカーとは異なり、供給不足が深刻だった動力電池を自社調達していました。そのため、減産幅を最小限に抑えられたと指摘されています。
この間、自動車販売の現場では車両の「弾(たま)不足」ともいうべき状況にありました。その中で、安定して車両を供給することのできたBYDが購買ニーズを一手に引き受けることとなり、販売台数を大きく伸ばす一因になったとみられます。
水平分業のリスクが顕在化
中国市場で躍進するBYDは7月21日、これまで電動バスのみ販売していた日本市場において、EV乗用車を発売することを正式に発表しました。
また中国メディアによると、深刻な供給不足が続いている自動車半導体について、BYDは自社での開発、供給を開始する計画であることが報じられています。前述の通り、BYDは動力電池を自社で生産、調達する垂直統合によって、今年上半期に大きな成果をあげました。半導体の自社開発報道が事実だとすれば、BYDはこの垂直統合モデルをさらに拡大・強化することになります。
経済のグローバル化とともに、自動車業界では各部品を外部専門サプライヤーから調達する水平分業モデルが発展し続けてきました。水平分業モデルはコストの抑制や主力事業へのリソース集中化といったメリットがある一方、サプライチェーンの脆さというリスクも存在します。実際に近年は、コロナ禍や上海ロックダウンなどによって世界中で物流の混乱が起きるなど、水平分業のリスクが顕在化してきています。
このところのBYDの躍進ぶり、またサプライチェーンの混乱ぶりを見るにつけ、垂直統合の価値を見直すべき時期に来ているように見えます。少なくとも中核部品に関しては、確実な調達を確保するよう、メーカーも自社開発などの対策を選択肢に入れるべき時期なのかもしれません。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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